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2011年2月 6日 (日)

光の道は誰のため

昨年、議論になっていた「光の道」構想。
ソフトバンクの理屈は「自分のための理屈」でしかない。

ソフトバンクの理屈では全ての光ファイバーを共用にすれば全体のコストが大きく下がり全員に恩恵があるというものだが、これは嘘である。
確かにHWなどの一部工材品は下がるだろう。ただ全体コストに占める割合はそれほど高くない。一番費用が掛かるのは人件費と建物などの固定費だ。それは大量消費の恩恵を受けるものではない。逆に回線が増えれば増加しかねないものである。

ソフトバンクのインフラは脆弱だ。
特にモバイルの回線に至っては常に綱渡りの状態である。

通常、携帯の電波はセルと呼ばれる基地局と接続して通信を行う。
そしてセルは交換機経由で光回線などのバックボーンに接続してセル間の通信や固定電話・インターネットなどと接続している。

NTTやauはこのセルと交換機を増やして様々なエリアをカバーしている。
一方、ソフトバンクは交換機(親交換機)の下に、さらに交換機(子交換機)を設置してエリアをカバーしている。
ここにソフトバンクの回線の脆弱性がある。
※わかりやすく書いているだけで実際の構成はもっと複雑である、当然。

親交換機を100台増やすためには、100台分のバックボーンが必要となる。

例えば、バックボーンの光ファイバーの速度を100Mbpsと仮定する。
1台の交換機に5台のセルを接続したとする。
そしてセルあたりの接続可能な端末(携帯)の台数を10台とする。
これならば、1台の端末あたり2Mbpsの帯域を利用出来ることになる。
100÷5(セルの台数)÷10(セルあたりの端末数)
ただし、親交換機あたりに接続出来る端末は50台である。

ソフトバンクはこの交換機の下にさらに交換機をつなぐことでエリアをカバーしている。
親交換機の下に5台の子交換機を設置し、その子交換機にセルを5台接続したとする。
そうなると端末1台あたりの回線速度は、0.4Mbpsになってしまう。
その代わり、親交換機あたり250台の端末を接続することが出来る。
100÷5(親交換機)÷5(子交換機)÷10(セルあたりの端末数)
このやり方ならば1台あたりの通信速度は遅くなるが、100Mbpsのバックボーン料金を250ユーザで負担することになるので、1ユーザあたりの料金は安くなる。
これがソフトバンクの回線費用が安い理由の1つだ。
そして、このやり方をすれば電話はどこでも繋がるようになる(エリア拡大と接続性は向上)が、帯域は圧迫されてデータ通信速度は遅くなる。だから帯域の逃げ道として回線コストが安い無線LANスポットへの誘導を一所懸命行っている。

では、何故ソフトバンクはバックボーンを強化しないのか。
バックボーンの構築には多額の設備投資と維持するための固定費が掛かるからに他ならない。この設備投資と固定に対するキャリアの負担はかなりのものである。NTTとKDDIはこのバックボーンを非常に長い時間かけて作り上げてきた。1年あたりに投資できる金額は限りがあるため、長い時間を掛けざるを得なかったのだ。
そして、ソフトバンクにはそれをすることが出来ない。そのためのお金がない。

先日のソフトバンクの第三四半期決算発表では増収増益の報告など一見順調なように見えるが、多額の有利子負債を抱えておりフリーキャッシュフローの大半を返済に充てるしかない。そのため、設備投資に回す現金が足りないのだ。

例えばソフトバンクモバイルでは端末債権の流動化を行って一部現金を調達している。これは利用者が端末を分割(ローン)で購入するとソフトバンクモバイルに対して端末代を債務として負っていることになり、ソフトバンクモバイルはこの債権を銀行などに差し出して現金を受け取っているということだ(つまり、ローンで端末を購入した利用者は銀行から借金をしていることになる)。
今期もこのやり方で100億円を調達しているが、同時にこれまで債権化したものの返済として150億円が発生している。
また、ソフトバンクは6月と9月に合わせて1,800億円の社債を発行しているが、これは23年6月に期限が来る社債の償還に使われるためだ。そしてこの社債の償還と発行は毎年行われている。
借金を返済するために別の借金を繰り返している状況ということになる。

通常の企業活動では毎年内部留保を行い、事業拡大の際にはその内部留保から新たな設備投資を行うのが原則である。しかし、ソフトバンクは有利子負債の返済が矢継ぎ早に迫ってきており、現金は基本的に借金の返済に回すことになり内部留保が出来ないために設備投資に回す資金が無いということになる。

事実、設備投資は設備面で大きく先行しているドコモが6,750億、KDDIが5,000億(携帯事業以外も含む)であるのに対して、追いかけているはずのソフトバンクモバイルは3,000億に止まっている。

確かに財務上のフリーキャッシュは増えているのだが、実際に自由に使えるお金は持っていないというのがソフトバンクの現状だ。
しかも、これはグループとしての決算であり決算報告を見るとソフトバンクグループの借金をソフトバンクモバイルが作った現金で返済している形になっている。

企業が成長するためにはお金が必要である。老舗や歴史のある企業は利益を投資に回して徐々に企業規模を拡大してきている。ところが新興企業には時間を掛ける余裕がない。特に昨今のようにマスビジネス化しないと競争から脱落するような状況ではスタートから企業規模を一気に拡大しないと負けが見えてしまう。そのためには借金するしかない。当然ながら借金は返済期限がきたら返さなければならない。
結局、立ち上げ時に一気に大きくした借金のつけが回って、その後の企業成長のための投資が出来なくなり回転操業をせざるを得なくなってしまう。
今でこそ、ソフトバンクは一流企業の仲間入りをしているが、わずか10数年前までは買収と失敗を繰り返して、いつつぶれてもおかしくはないが何故か奇跡的に持ち直してきた会社である(孫社長のギブアップしなかった根性と切り抜ける才覚は非常に素晴らしいと思う)。

ソフトバンクはiPhoneを日本で独占販売している。これはソフトバンクの売り上げ向上に寄与しているが、同時にバックボーンを圧迫する結果となっている。本来ならばiPhoneによって増えた売り上げを、iPhoneで増えたトラフィックをさばけるように設備投資するのが筋なのだが、抱えている借金の返済に追われてそれが出来ていない。
ARPU(1回線あたりの収入)もドコモが5,000円台後半、auが5,000円台全般であるのに対して、ソフトバンクはぎりぎり4,000円台である。ドコモ、auが減っているのに対してソフトバンクは増えていると順調さを自慢しているが、絶対値としては大きな差がある。
結局「安かろう(ARPUが低い)、悪かろう(回線速度が遅い)」という状況になっている。

また、ドコモの営業費用3.5兆、KDDIの携帯事業の営業費用2.2兆に対して、ソフトバンクの営業費用は1.4兆である。
携帯事業はインフラサービスだから、通常であればシェアが低いほど営業費用の負担は大きくなるはずだが、ソフトバンクモバイルはシェアあたりの営業費用は3社の中で最も低い。これは固定費の負担が小さいことを意味している。ここからもインフラの弱さが見えるし、だからこそ低いARPUで利益を生み出せているということになる。逆に言えば、インフラを整えようとするとビジネスが崩壊しかねないのだ。

このような状況を打開する策が、NTTの作ったバックボーンを使わせてくれという「光の道」構想だ。

大河ドラマに合わせて自身を坂本龍馬、既存の勢力を幕府に重ね合わせてアピールしたのは確かに上手いかもしれないが、そんなので騙されるのは(回線状況に満足していない)ソフトバンクユーザと人気取りに敏感な政治家ぐらいである。

ソフトバンクモバイルのホームページで「光の道」A案、B案の投票が行われており、ソフトバンクの主張するB案が86.5%と圧倒的なのも当然である。なぜならドコモユーザやauユーザはわざわざソフトバンクモバイルのHPに行って投票などしないからだ。
しかも、投票ページには

A案B案
税負担あり税金ゼロ
5,000円/月1,150円
地方切り捨て全国
2050年以降2016年

と露骨なまでのディレクションがなされている。逆に言えばそれでも13.5%はA案を支持しているということだ。

そもそも月額5,000円が1,150円になるといった時点で、これを信じるというのは無理だ。この金額の差異に現実感を持てる人がどれくらいいるのだろうか。

確かに以前ソフトバンクはADSLで価格破壊を行った。そのためにソフトバンクなら安くすることが出来るかもしれないと考える人がいるかもしれないが、これは間違いである。
なぜならADSLのときは、固定費に掛かる部分はほとんどNTTが負担しソフトバンクはNTT交換局にADSL設備を置いただけだからだ。もちろん設備を置いている面積の費用は払ったが、通常の事務所を例に考えてみると机の面積よりも通路やエレベータホールなどの共有部分の面積の方が大きいし、電力負担も設備以外に蛍光灯などのファシリティやどこのNTT基地局にも設置してある非常用発電のジェットタービンなどの維持費が掛かる。さらに建物自体も災対として普通の同サイズのビルに比較すると数倍のコストが掛かっている。

ソフトバンクは今回の光の道構想における見積もりとして自社実績を元に費用を算出しているが、建物ひとつとってもソフトバンクが使っているデータセンタなどとは桁違いであることを彼らは知らないのだろう。
※地震が起きた際には公園よりもNTT基地局に避難する方が安全である。
※基地局の構造は対テロや対犯罪防止のために機密扱いである。また交換網の設計(回線ルート)も同様であり、他社が金額を推測出来るものではない。

そんなソフトバンクのコスト算出だから、現実性など全くないものになっていた。
さらに言えば、コストはソフトバンクも平等に負担すると言ってはいるが、それでも自身で構築するよりは格安で済むのでソフトバンクには全く損がないものとなっている。

結局、ソフトバンクや入れ知恵された一部政治家が散々引っかき回したみたものの、総務省に一蹴されてしまった。

もちろん、今後様々な状況の変化は訪れてくるだろう。NTT側にも全く問題がないわけではなく、光ケーブルがフルに活用されていないのも現実としてある。NGNはその解決方法の一つだ。
ただ、このNGNが本格化すると真っ先に取り残されるのはやはり強いバックボーンを持たないソフトバンクである。
すでにNTTではフレッツ光ネクストなどNGNを使ったサービスが提供されているが、真に本格化するのはデジタル交換機の耐用年数がくる2015年前後だろう。そしてソフトバンクが主張している光の道B案の開始が2016年、これは決して偶然ではない。

ソフトバンクはNGN網が欲しかったのだ。これがソフトバンク「光の道」構想の本質だと思う。

別にソフトバンクが嫌いなわけではない。ただ言っていることが信用できない。自分たちのために欲しいのならば欲しいと素直に言えばよい。
みんなのためにNTTが構築した回線を開放しましょうという建前の主張と、iPhoneは自分たちが販売経路を構築したのだからSIMフリー化はしない、iPadも日本だけソフトバンクの独占販売だという本音の主張。どちらの主張にもソフトバンクにとっては都合のいいものでしかない。

経済はゼロサムゲームである。全員にとって美味しい話はあり得ないのだ。

ここからは余談。
赤字国債を発行するために国民一人あたりの借金が○○円になったと報道される(現在ではだいたい800万円ぐらいだろうか)。
が、この数値は「政府の借金を国民の人数で割ったもの」に過ぎない。
通常、借金というのは借り手と貸し手が存在する。この場合借り手は政府であるが、貸し手は銀行などの金融機関が主な国債に引受先である。
つまり、国民が借金をしているのではなく、政府が国民から借金をしているのだ。「国民一人あたりの借金」などという、あたかも赤字国債の発行で国民が借金をしているような報道はミスリードというものだ。
そして、この借金を返済するだけならば実はとても簡単だったりする。なにしろ政府の借金なのだから、返す気になれば紙幣を発行すればいいだけだ…もちろんそんな多額の紙幣発行は紙幣価値の低下を招き日本経済そのものが崩壊するので実際に行うことは出来ない。

日本は同時に世界有数の債権国でもある。相手はアメリカだ。ただし、この場合も貸し手である日本が借り手であるアメリカに対して強いのかというと答えはノーである。アメリカが返せないと宣言(デフォルト)すれば終わりだからだ。

例えれば、家の中でお父さんは子供たちから借金をしているが、隣人にお金を貸しているという状況だ。お父さんが子供たちにお金を返すためには、家を売ればいいがそうすると子供たちは住む家を失うことになる。また隣の家の人が破産宣告して夜逃げしてしまえばお父さんが持っている借用書はただの紙切れになってしまう。
つまり、子供たちに住む場所がなくならないようにお父さんに貸し続けなければならないし、隣人は破産宣告をされたくなければ自分の経営する店から物を買えとお父さんに迫っているということだ。

借金は返せる額であるうちは貸し手が強いが、返せないぐらい大きくなると借り手の方が強くなる。
小さな借金は弱点だが、大きな借金は武器なのだ。
ソフトバンクももっと巨額の借金を抱えると(それに見合ったビジネス規模を獲得すると)、自分の思い通りに出来るようになるかもしれない。

 

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